
大瀬良 淳平さん
Junpei Osera
株式会社エヌ 事業部長。福岡県出身。大学を卒業して地場食品メーカーに勤務。退職後、縁あって学生時代に派遣で仕事をしていた、株式会社ユニバースクリエイトに入社。約10年間、大学生の就職支援や公共事業を行う。以前から関心をもっていた、農業分野のビジネスを行う株式会社エヌに、社内制度(チャレンジポスト)で異動を希望し、2024年7月から現職。

吉永 亮さん
Ryo Yoshinaga
株式会社アソウ・ヒューマニーセンター 鹿児島支店 支店長。鹿児島県出身。大学卒業後、銀行に4年間勤務。その後、未知の分野でキャリアを構築するため、外資系煙草会社、煙草の卸売会社、就労支援事業所、牛乳宅配業に勤務。2016年、株式会社アソウ・ヒューマニーセンターに入社し、10年目を迎えた。2018年1月より現職。
取材ご協力先:愛菜ファーム株式会社 様・冨津漁港 関 様
一次産業の未来を変える、外国人労働者支援事業
株式会社エヌ(以下、エヌ)は2019年2月、外国人労働者活用(労働者派遣事業・有料職業紹介事業)の基盤を確立し、長崎県の農業を発展させることを目的に設立された。社名の「エヌ」は「日本(N)」の「農業(N)」の「新たな(N)取り組み」を指している。
エヌが手がけるのは、自治体(長崎県/農林水産業担い手育成基金)、農業のプロ(JA長崎県中央会)、人材のプロ(アソウ・ヒューマニーセンター)の三者による共同出資で設立され、長崎県内に限らず、日本全体の一次産業振興をめざすプロジェクトである。当初は農業でスタートしたが、現在は、長崎県が全国有数の水揚げ量を誇る水産業にも、本プロジェクトが拡大しつつある。
三者は役割を分担して、プロジェクトを推進する。個人農家や漁師・水産会社から圧倒的な信用がある長崎県(自治体)が、各地の振興局を通じてプロジェクトの周知や他県との連携を行う。また、JA長崎県中央会(農業のプロ)が担当するのは、個人農家の取りまとめや相談対応、派遣時の住宅提供や通勤支援などのサポートだ。そして、エヌ(人材のプロ)が入国に関する諸手続き、派遣先への受け入れ指導や現場の課題解決、スタッフ育成を担っている。

夏場の暑いハウスの中でも、笑顔で仕事に取り組むリムさんとユェクリムさん。農業の現場で日々前向きに、そして明るく活躍している。
業務は、長崎県平戸市の本社で入国管理の書類作成、在留カードの申請・更新管理などを行い、諫早市と島原市のサテライト拠点に常駐するメンバーが、個人農家や漁師・水産会社、実際に働く外国人労働者と直接やり取りしながら定着支援を担っている。また、北海道と東京にも拠点を開設し、スタッフ管理や顧客開拓を行っている。
繁忙期に合わせて各地を移動するリレー派遣
現在エヌは、派遣で約200名、登録支援(紹介/直接雇用)で約55名の外国人労働者を、農家や漁師・水産会社につなげている。その中でも注目を集めているのが、季節によって繁忙期が変動する第一次産業の特色に合わせ、派遣先を移動する「リレー派遣」である。

繁忙期に合わせて、長崎でジャガイモ・にんじん・玉ねぎ・ブロッコリー・ミカン・イチゴ、鳥取でらっきょう・スイカ、長野でレタス・白菜、山形でサクランボやスイカ、北海道ではニンジン・玉ねぎ・キャベツといった具合に、全国各地を移動しながら働くのが「リレー派遣」です。年間を通じて事業者は労働力を確保できますし、外国人労働者は収入が安定する。それぞれにメリットの高い事業スキームだと言えます。
エヌの派遣事業の種類について
- 農業通年派遣:畜産関係を除き、年間を通じて仕事を確保できる農家は少ない。
- 農業リレー派遣:繁忙期に合わせた移動で、労働力確保と収入確保が両立できる。
- 漁業通年派遣:直接雇用希望が多いが、トライアルでの受け入れが増えつつある。
- 漁業リレー派遣:海苔養殖業などの問い合わせもあり、今後の展開が期待できる。
登録支援/紹介事業について
直接雇用を希望する事業者向けのサービスで、水産業からのニーズが高い。

農業分野では、産地連携なども着実に進んで、引き合いも増えています。水産業分野では、船員法※の兼ね合いもあり、派遣ではなく直接雇用のニーズが多いですが、船員法適用外の養殖業からの引き合いも増え、派遣のニーズも増えてきております。
※船員法:海上労働者である「船員」の保護を目的とし、船員の雇用契約、給料、労働時間、休暇などを定めた法律。
冨津漁港でイワシ漁を営む関さんのもとで外国人スタッフとして働いている、ジェジェンさんとイノさん。彼らの力が、日本の水産業を支えている。
外国人労働者の出身国も、当初はフィリピンやベトナムから若干数を受け入れていたが、現在はカンボジア62%、インドネシア38%と、この2か国に集約されている。今後は、他業種も含めて来日経験者・来日希望者が多く、来日前の日本語教育も充実しているインドネシアからの受け入れが増えると見込んでいる。

人口世界4位のインドネシアだけに、海外をめざす若者が非常に多いです。日本文化との親和性や穏やかな国民性も、定着につながりやすい要因でしょうね。彼らの人気職種の3位が農業、5位が漁業で、出稼ぎ先として日本は人気国のようです。カンボジア人は現在は派遣者数の約6割を占めていますが、近年は円安の影響もあり手取り収入が多い韓国への就労希望が増えています。今後は、来日数が減少する可能性もあります。
自ら望んで業界の常識を塗り替える取り組みに挑戦
2019年の設立当時、エヌが展開する「一次産業に特化した外国人労働者の活用支援事業」に対する多くの事業者の反応は、想定以上に鈍かった。従来の技能実習制度に関するネガティブなイメージ(支援機関等の不透明な実態や、来日後の離職や失踪など)の影響も考えられる。さらに全世界を巻き込んだコロナ禍によって外国人労働者の入国が制限され、エヌの事業そのものが停滞を余儀なくされた。

当初は、多くの外国人労働者の稼働を計画して事業を開始しましたが、コロナ禍で業績は赤字続きだったと聞いています。
当時、別部門の業務に従事していた私は、以前から日本の食料自給率問題に関心があり、農業分野の可能性に魅力を感じていました。農家の高齢化と人手不足、離農による生産量の縮小と国内自給率の低迷は差し迫った課題です。それは言い換えれば、次代に向けて業界の常識を塗り替えられるチャンスでもある。
そこで、希望する事業に自薦で異動希望を出せる社内制度「チャレンジポスト」に何度かチャレンジし、やっと1年前に異動できました。今は最前線のリーダーとして、仲間と一緒に現場の課題解決と事業拡大に力を尽くしています。
※AHCGの社内制度「チャレンジポスト」についての記事はこちら

農業の現場で働いているユェクリムさんとお話している大瀬良さん。現場の声を直接聞き、より良い働き方を追求することで事業の未来を拓いていく。
アフターコロナの現在、業績は右肩上がりに伸長し、さらに、今後の展開にも大きな期待が寄せられている。それだけ市場のニーズは高く、エヌの事業自体に存在価値があるという何よりの証だ。
教育の充実で、外国人労働者の資質向上を支援
エヌが外国人労働者をつないだ地域では、飲食店やスーパーなどの利用客が着実に増えており、彼らの存在が地域経済の活性化につながっているのは間違いない。

まずは派遣を拡大し、事業を安定させます。さらに、外国人労働者を取り巻くさまざまな課題を一つ一つクリアにすることで、エヌが業界のリーディングカンパニーとなり、適正価格の安定と外国人労働者の待遇改善を主導していきます。
待遇改善は、収入や福利厚生に限らない。目下エヌが優先事項として重要視しているのが、来日した外国人労働者への教育投資である。彼らは現在、特定技能1号で来日・就労しているが、今後は日本語習熟や特定技能2号への移行に向けた通信教育を継続的に実施したいと考えている。教育の充実を通じて、外国人労働者の資質が向上するのはもちろんだが、特定技能2号は在留期間の上限が無いため稼働期間が伸び、事業者がエヌを選ぶ理由が広がる。外国人労働者がより定着しやすい環境整備を確立することで、深刻化の一途をたどる一次産業の人手不足に一石を投じたい。それがエヌの展望である。
日本での就業後も、農家さんから直接技術指導を受けながら成長できる環境がある。外国人スタッフは安心して働きながらスキルを習得し、日本の農業を支える大切な一員として活躍している。

かつては“出稼ぎ”意識が強かった外国人労働者ですが、日本への定住を希望する若者も増えています。特定技能2号への移行は、「日本国内で自立した生活を送ることができる」という前提なので、彼らの人生の選択肢も広がるはずです。
エヌは”一次産業の未来を創る”という目的に向けて、外国人労働者による労働力供給という一歩を踏み出した。その先に、さまざまなビジョンを描いている。
自前で農地を確保し、待機スタッフの課題を解消する。空き家を利用してスタッフの住居やゲストハウスを運営し、地域創生の一翼を担う。AHCGのIT部門と連携して、スマート農業を実践する。福利厚生部門との連携で、農地のサブスクを展開する。そんなアイデアが次々に生まれている。5年の在留期間を終えて帰国した外国人労働者に対する、帰国後の起業支援などは、きわめて実現性の高いビジョンだろう。

人の暮らしの原点とも言える一次産業は大きな転換期を迎えています。だからこそ"夢"がある。情報や技術が進化した現代だからこそ創造・構築できる、次世代の一次産業の在り方を、私たちは追求していきたいのです。
エヌが事業を通して確立し、描いていく一次産業の新たな姿に、大いに期待したい。
エヌは、外国人労働者の活用に向けた体制整備と活性化を契機に、農家や漁師・水産会社の経営規模拡大や所得向上、雇用の安定を支援します。結果として、未来に向けた農業や水産業の安定的な経営基盤の確立と、地域振興の実現をめざしています。